絵画の中の猫
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ フィレンツェのサンマルコ美術館でギルランダイオの 「最後の晩餐」を見たとき、絵の中に猫がいるのを見つけました。そのときは、なぜ猫が描かれているのかはわからなかったのですが、探してみると猫が描かれている絵は、意外とたくさんありました。それで、まとめてみたのでご覧下さい。今のところ、イタリアの画家中心ですが、ほかの国の画家の絵も見つけたら増やしていくつもりです。 調べてみると、猫が描かれているのは、当時の人々が猫を好きだったわけではなく、逆に嫌われていたことがわかりました。中世からルネッサンス期には、キリスト教会は、猫は悪魔の使いであると考え、人間の罪や悪徳の象徴であるとして、嫌っていました。絵画に登場する猫もそういった意味の象徴として描かれていたのです。15世紀から18世紀にかけてヨーロッパ各地で魔女狩りが盛んに行われましたが、そのときも、猫は悪魔の手下で魔女が変身した動物として、魔女の疑いをかけられた人と同様に殺戮されていたのです。 そう思うと、猫好きとしては少し複雑であり、また感慨深いものがありますが、それはそれとして、見たいと思います。 * 画像を見てからこのページに戻るときは、ツールバーの「戻る」をクリックしてください。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ |
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"Annunziazione"(1592-96) 「受胎告知」
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受胎告知の絵に猫が描かれているのは、このバロッチの絵と、ロットの絵があった。猫は画面の左下で気持ちよさそうに眠っている。マリア様が大天使ガブリエルに知らせを受けていることなど少しも気が付いていないように眠っているが、意外と目立つ左隅。画家が、見る人が猫に気がつくように描いたとしか思えない。悪徳の象徴にしては、かわいい猫に描いてある気がするが。 |
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"Annunziazione"(1527) 「受胎告知」
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この、ロットの受胎告知の絵はとても変わっている。ガブリエルは、神様からのお告げと言うように右手を上に上げ、マリア様に告げているが、マリア様は、驚きとともに、後ずさりしているように、両手を前に押すようにしている。そして、また目立つ位置に、猫が。大天使とマリア様の間に、猫が驚いたような表情で走っている。これも目立つ。 |
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"Christ Taking leave of his mother"(1521) 「キリスト、母マリアにいとまを告げる」 |
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続いてこれも、ロットの作品。聖書のどの場面なのか、はっきりわからないが、キリストの言葉を聞き、ショックを受けたマリアが抱えられている場面のようである。そして、ここにも猫がいる。画面右側の真中あたりに、歩きながらこちらを向いている。猫は、場面の目撃者なのだろうか。
右下の人の足元には、白くて小さな犬もいる。 |
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"L'ultima Cena"(1486) 「最後の晩餐」
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旅行記でも紹介した絵ですが、この猫は、はっきりとこっちを向いている。というよりも、あきらかにこの絵を見ている私たちを意識して描かれている。画家の視点ということなのか。「あなたは、どう思いますか?」と問いかけているような気もする。 |
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"L'ultima Cena"(1) 「最後の晩餐」
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左にはおねだりをする犬がいて、右には犬と(大きな鼠のようにも見えるが)向かい合って今にも飛び掛ろうとしている猫がいる。動物たちには、この重大な場面も関係ないということなのだろうか。 |
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"L'ultima Cena"(1542) 「最後の晩餐」
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この猫は、見たところ、ただこぼれたごはんでもないかと探しているようだ。真中にいる犬は丸くなって寝ている。それにしてもこの「最後の晩餐」は、とてもにぎやかだ。使徒たちが喧喧諤諤と議論しているのが音まで聞こえてきそうに描かれている。ただ、ヨハネ(多分)が、ひじをついて、居眠りしている。 |
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"The Supper at Emmaus"(1538) 「エマオでの夕食」
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エマオの晩餐のテーブルにつく人々の足元に、すり寄ってきた猫を発見。こぼれた食事をねらっているのか、あるいは、猫好きの人に分けてもらおうと思っているのか、猫の表情は、リラックスしている感じなので、分けてくれるのを待っているように思える。 |
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"The Supper at Emmaus"(1527) 「エマオでの夕食」
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ここにも犬と猫がいる。犬はお行儀よく座っているが、猫はごはんを狙っているような気がする。表情がちょっとずるがしこそう。 |
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"Supper at Emmaus"(1525) 「エマオでの夕食」
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マニエリズムの代表的な画家、ポントルモも猫を描いていたとは。しかも2匹も。でもこの猫たちは、少しおびえた表情。そして2匹ともわたしたち観客を見ている。左下に犬もいるが、こちらを見てはいない。バッサノの猫よりもかわいい顔をしていると思うのだけれど。 |
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"The Birth of St. John the Baptist"(1540s) 「洗礼者ヨハネの誕生」
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この猫は、はっきり言ってあまりかわいくない。猫のずるがしこく、獰猛な感じがよく出ている。鳥も何かの象徴だろうが、その鳥に飛び掛らんばかりだ。 |
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"The presentation of the Ring"(1534) 「指輪の提示」
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左側の真中より少し上に猫がいる。男の人に何かもらっているようでもあり、ねだっているところにも見える。
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"Interior of the Choir in the Capchin Church in
Piarza(the Author's replica)"(after1818) 「ローマのバルベリーニ広場のカプチン会付属教会の内陣」
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この猫は、少し意味が違う気がする。描かれたのが1818年頃で、猫に対する迫害はなくなった頃だと思う。そして、この猫は赤い首輪をしているので、飼い猫だろう。猫にとって辛い時代を生き抜いてきて、やっと教会の中でも安心していられるようになったのか。
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"Two christians before the judges"(1367) 「裁判官の前のふたりのキリスト教徒」
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これはもしかすると犬かもしれない。画像がはっきりしていないので断言できないが、足やしっぽは猫のようだ。顔が少し長いように見えるので、犬かも。この画像で判断する分にはずいぶんと邪悪な顔つきに見える。 |
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"Madonna with Child and four Saints"(1468) 「聖母子と四聖人」
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これは猫というよりはライオンのようだが、ライオンも猫科だし、ライオンにしては、とても小さい。しかし、1400年代、まだ中世的な表現がされているとすると、ライオンかもしれないが、猫が珍しかったので猫を見ずに描く画家も多かったそうなので、猫のつもりで描いているのかもしれない。司祭の裾に前足をかけて鳴いているところで、猫好きにとってはたまらないポーズだが、いかんせん顔が怖い。司祭が平然としているのもちょっと不思議。 |
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"The Return of Odysseus"(1509) 「オデュッセウスの帰還」
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この絵は宗教的なテーマの絵ではないので、猫は邪悪の象徴ではないと思う。毛糸玉にじゃれて遊んでいるようなので、日常生活のひとこまとして登場させたのだろう。 |
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"Arrival of the French Ambassador in Venice"(1740s) 「フランス大使のヴェネツィアへの到着」
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この画面の右下にとても小さい猫がいる。ように見える。この絵も画像でははっきりしないので、犬なのかもしれないが、猫だと思いたい。というか、勝手に思っている・・・
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"Piazetta"(1733-35) 「ピアツェッタ」 (サン・マルコ広場)
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これは猫でしょう。少し左に犬がいるし、座り方が、猫っぽい。広場を散策する人々を描いているので、日常的な風景の中の登場人物としての猫を描いたのだろうと思う。当時と同じに、今でもヴェネツィアは車のいない、猫にとってはとても安全な街なのだ。
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参考書籍 |
「ニャーンズコレクション」 赤瀬川原平 小学館 「猫の事典」 犬養智子 ごま書房 |
Courtesy of Web Gallery of Art & Kimbell Art Museum